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金属に応力が加わることで、その金属が硬くなる現象のことを、加工硬化といいます。わかりやすい例でたとえると、針金を幾度も折り曲げて塑性変形させると、徐々に硬くなっていくのですが、同時にもろくなってしまうため、最終的には切れてしまう現象のようなものです。
切削加工においては、ワークを切削するときに発生する加工熱が、加工硬化を引き起こす原因となります。どのような金属にもこの現象はみられますし、また、切削加工とはそもそも塑性変形の連続によって目的の形状に仕上げる作業です。ですから、あらかじめ加工硬化の発生を見越した対処が求められるわけです。
上述のとおり、加工硬化は塑性変形によって生じる現象ですが、その仕組みについてもう少し詳しくみていきましょう。
金属は、これを構成している原子が整然と配置されているのが特徴です。格子の交点にきれいに配置されている状態です。力を加えたとしても、一定の変形量以下の場合は、力を抜けばもともとの形状に戻ります。けれども、一定の変形量を超えた場合には、もとの形状にはもどらなくなってしまう、いわゆる塑性変形が生じるのです。
その際に、原子配列の乱れのほか、格子の交点が空になる「格子欠陥」が起こる場合があります。これらは加工をほどこすと増大していきます。そして、原子配列の乱れ・格子欠陥が干渉し合い、弾性変形と塑性変形が生じにくくなります。つまり、原子配列が変動するための余地がなくなると、再配列も不可能になるので、加工硬化が起こるわけです。
加工硬化が生じると材料自体の硬さが増すため、材料にメリットを与えていると考えることも場合や目的によっては可能です。けれども、硬さが増すことと引き換えに、もろくなったり粘りが低下したりするデメリットが生じるわけですから、基本的には、重大な問題であると考えるべきです。工具へのダメージも避けられませんし、また、そのことは製品の精度低下にもつながります。
ほとんどすべての加工プロセスにおいて、発生する可能性がある加工硬化。工具の硬度に対してワークの硬度が高いと、どうしても工具の摩耗が激しくなるため、加工硬化は工具の寿命を縮めてしまう原因になります。
加工硬化によって刃先にチッピングなどの問題が発生しやすくなります。チッピングが生じてしまうと、切削抵抗が上がることによる仕上げ面の劣化が避けられません。その結果、製品の寸法精度に影響してしまうのです。
加工硬化の発生をおさえるには、切削抵抗を低くすることが大切です。そのためも、切れ刃の形状や切れ刃をワークに当てる角度、そして工具・ワークそれぞれの硬度などをすべて考慮に入れて工具を選定したいところです。また、加工温度の上昇をおさえるためにはホルダの選定も同じくらい重要なポイントです。できれば、クーラントを刃先から吐出できるような工具やホルダを選ぶようにしましょう。
切削点の温度上昇を回避し、一定に保つことで、加工硬化が起こりにくくなるような切削条件をととのえることが大切です。たとえば、切削速度・工具の送り速度のコントロールなども、それに含まれます。
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